【教員新著】榎本珠良准教授|『紛争・開発・安全保障―人新世の「人間の安全保障」を再考する―』(晃洋書房)
榎本珠良准教授(国際学科)による、本学国際学部および東京大学での「人間の安全保障」批判講座が、『紛争・開発・安全保障―人新世の「人間の安全保障」を再考する―』(晃洋書房)として書籍化されました。「人間の安全保障」概念の自明性を切り崩し、この概念が依拠する人間像や人種主義的な眼差しに光をあて、研究と実践において生じてきた乖離や問題を分析する、批判的安全保障研究の先端研究の成果です。
◆書籍情報
図書タイトル:『紛争・開発・安全保障―人新世の「人間の安全保障」を再考する―』
出版社名:晃洋書房
総頁数:360頁
価格(税込):3,850円
出版年月日:2025年3月20日
URL:https://www.koyoshobo.co.jp/book/b659688.html
◆図書の趣旨
1990年代前半に「人間の安全保障」という概念が提起されてから、既に30年がすぎた昨今、「人新世」といった概念が溢れ、「ヒトだけを見れば済む時代の終焉」との問題提起がなされるようになっています。こうした時代を前に、過去30年の「人間の安全保障」について、いまいちど、この概念が依拠した人間像のレベルから、この概念を掲げた現場での詳細な施策実施のレベル、この概念を掲げた条約形成やその内容・実施状況のレベルまでを振り返り再考し、それらについて単に称賛するだけではなく、批判的な視座をもって再考することが求められているのではないでしょうか。
本書は、開発と安全保障を融合させた言説や「人間の安全保障」といった概念が依拠してきた人間像や、そうした言説や概念を掲げた人々が推進した開発・人道援助のありかたやイメージの使用の仕方、さらには彼らが推進した条約等の合意形成とその内容・実施状況について検討し、言説と実践との間に生じる乖離やジレンマに光を当てます。そして、2010年代後半以降に興隆したMe Too運動やブラック・ライヴズ・マター(BLM)運動の展開、ロシア・ウクライナ戦争やイスラエル・パレスチナの状況などを背景に生じてきた、開発と安全保障にまつわる理論や業界に対する批判や再考の動きに焦点を当て、「人間の安全保障」をめぐる組織や政策・施策が抱えてきた男性中心主義や人種差別を分析します。
注)「人新世」とは、概して人類の経済活動の痕跡が地球全体を覆い、そのありかたを根本から変えた事態を生んだ時代を指しますが、その厳密な定義やその起点については論争があります。
◆目次
はしがき
第1章 開発と安全保障の融合
はじめに
第1節 新しい戦争論
第2節 開発論の変遷
第3節 「人間の安全保障」概念の登場とレジリエンス、「人新世」
おわりに
第2章 批判的安全保障研究と開発・安全保障言説
はじめに
第1節 批判的安全保障研究 第1世代
第2節 批判的安全保障研究 第2世代から第3世代
第3節 批判的安全保障研究 第4世代
おわりに――本書の位置付け
コラム1 ライブ・エイドからライブ8へ――アフリカ・イメージの変容
第3章 「人間の安全保障」の「人間」とは?
はじめに
第1節 語られてきた「人間」像
第2節 19世紀以降の「人間」像の変容
第3節 「脆弱な人間」像のGS への投影と国家主権概念
おわりに
第4章 新人道主義の登場
はじめに
第1節 古典的人道主義の時代
第2節 新人道主義の登場
第3節 新人道主義にみられる開発・安全保障言説の矛盾
第4節 心理社会的活動――北部ウガンダ・アチョリ地域の事例から
おわりに
コラム2 日本のアフリカ地域研究と人道主義論
第5章 移行期正義
はじめに
第1節 ウガンダの「移行期正義」論争
第2節 「アチョリの修復的正義」言説を再考する
第3節 グローバルなセラピー統治?
第4節 ローカルなアクターによる抵抗・妥協と飼いならし
おわりに
第6章 対人地雷の「パーリア」化を再考する
はじめに
第1節 「地雷危機」認識の構築
第2節 「地雷危機」言説の分析
第3節 地雷がパーリア視された文脈
おわりに
第7章 通常兵器移転規制の進展と限界
はじめに
第1節 19世紀から冷戦期までの通常兵器移転規制
第2節 1990年代――国連軍備登録制度から移転許可基準へ
第3節 「グローバルな規制」の模索
第4節 国連ATT 交渉
第5節 ATT の内容
第6節 1990年代以降の通常兵器移転規制の限界
おわりに
コラム3 なぜ中国は武器貿易条約(ATT)に加入したのか
第8章 研究者・実務者に語られる神話――日本の武器所持規制の事例
はじめに
第1節 英語での研究・政策論議・報道――「銃を捨てた日本人」
第2節 実際には銃を捨てなかった日本人
第3節 銃を捨てずに暴力を抑えた理由
第4節 第2次世界大戦後の日本の銃規制はなぜ可能になったのか
おわりに
第9章 軍備管理・軍縮における「ジェンダー主流化」と人種主義
はじめに
第1節 「ジェンダー主流化」の背景
第2節 「ジェンダー主流化」の展開
第3節 「ジェンダー主流化」の課題
第4節 人種主義的・差別的思考・行動とその帰結
おわりに
コラム4 「国際社会」におけるアフリカ――非国家主体への武器移転規制の事例から
第10章 ロシア・ウクライナ戦争をめぐる言説から
はじめに
第1節 ロシア・ウクライナ戦争をめぐる言説における人種主義
第2節 人種主義的な発言・記述の背景
第3節 政策・施策上の危険な帰結
おわりに
第11章 開発・安全保障業界内の再考(rethinking)の動向と構造的問題
はじめに
第1節 Me Too 運動後,ブラック・ライヴズ・マター運動後の再考(rethinking)
第2節 続く人種主義――ガザの人々への連帯を示した有色人種職員の解雇事例
第3節 「人道的軍縮」キャンペーンの構造的問題
おわりに――日本被団協へのノーベル平和賞授与が意味するもの
おわりに
あとがき
参考文献
