3-3.ウアブとミラド神話にみる神話的記号 ウアブとミラドの神話は、次の3つの共通項──①沢山食べる女、②石、③神と風(神の力である魔術や予言も含めて)──を軸に物語が構成されている。 ①沢山食べる女は、それぞれウアブとミラドを指している。一部の伝承においてはウアブを男と表象するものもあるが、この場合においても焼け死んだ後のウアブがパラオの地となった際、男性から女性へと変化したと言い伝えられている。同様に、ミラドは「女」として物語に登場して、後に石(子)を産む。即ちこれがパラオの母系制5の起源であると考えられている。②石は、生命の象徴として描かれている。ウアブは巨人化する前には一旦その姿を石に変えている。巨人化して人々に焼かれた際、基石の上に覆い被さりやがて土となる。あるいは、ミラドを生き返らせるための道具として石が使用され(実際には風を飲んだが)、生命を吹き返したのちにやがてミラドは4つの石を産む。このように石は、ウアブやミラド、そしてミラドが産んだ生命そのものを象徴する媒体として表象されている。③神と風については、ウアブ神話では天の神、ミラド神話においては土地の神が登場している。神々はウアブやミラドに生を与える役割を担っており、風を吹かせるという術を用いる点においても共通している。 創設神話には、これら3つの共通項の他にも隠された法則がある。それが、二分と四つ角の法則である。まず、そもそも当該地域の創設神話が二部構成であることに注目しなければならない。ウアブとミラドというそれぞれの神が、土地、そして村落を構成していった。このように唯一神が設定されていないことが、首長制にみる平等制の論理と共鳴する点である。さらにこの平等制の論理は、これまで島全体を統括する政体を持たなかったパラオの伝統的政治のやり方の根拠でもあると認識されている。 二分の法則はパラオの村落社会の空間概念にも応用されている。これについて青柳は次のように説明している。「パラオ社会を貫く原理は二分であり、この二分は村落の構成においても、非常に明瞭にあらわれている。原則として、パラオの村は、村の中央を流れる水流、道路などを境界とする二つの地区から成り立っている。各地区は、それぞれ、海へ通ずるマングローブの水路を持っている」(青柳 1985:20)。一つの村落は10(ないしは11)の出自集団(ケブリール/kebliil)からなっている。村落内は、ビタン・マ・ビタン(bitang ma bitang/こちら側とあちら側)と呼ばれる階層位の奇数と偶数のグループに二分される。旧村落においては、実際に、家々が、この階層位に準じて村落の東西いずれかに双分的に分布している。を飲ませてしまった。ムダブルスコエルは怒ってテリーズをむき棒で殴った。今でもテリーズ鳥の頭が割れているのはその為である。ア・プカウは息を吹き返したが、その時石を飲ませれば人間の命は長く絶えなかったのに、風を飲ませた為にその吹き込んだ風が絶えると人間は死ななければならない。ア・プカウは■ってミラドとなった。 そしてミラドは4人の石(子)を産んだ。それが、ア・イミュンス(現:アルモノグイ州/長男)、オルケヨク(現:マルキョク州/次男)、ホルオル(現:コロール州/三男)、イミリーキ(現:アイメリーク州/長女)である。」(土方 1985:38-47, 2008年12月アイメリーク州での聞き取り調査をもとに筆者が再編)パラオ地域研究:ことばから石へ79
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