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(3) イスラム教研究[大川玲子] 個人での研究調査の主たるものは、論文“The Religious Others in the Qurʼān and Conversion: Farid Esack on Pluralism and Reza Shah-Kazemi on Interfaith Dialogue”(Australian Journal of Islamic Studies 6-3 (2021): 36-55)の執筆・刊行と奄美大島でのユタの聞き取り調査の二点となる。 論文“The Religious Others in the Qurʼān and Conversion”ではFarid EsackとReza Shah-Kazemiという現代のムスリム思想家をとりあげた。両者の改宗観を分析し、宗教間の優劣をどう認識しているのかを解明した。両者はそれぞれ立脚する立場は異なるが、宗教間の優劣を否定し、改宗して信仰対象を変える必要を認めないという共通認識をもっていることが明らかになった。 周知のようにキリスト教は「正統orthodoxy」と「異端heterodoxy」という二項対立構造を歴史的に形成してきた。しかしそれは、キリスト教内部における自他の差異化の過程であったが、とりわけ近代西洋社会の「世俗化」によって「キリスト教」の境界画定自体に大きな変容が強いられることとなった。その過程においてキリスト教の近代的自己認識の形成を促す一つの契機が、非西洋地域の「他宗教」の再発見と創出であった。2021年度はその端緒の一つを、1893年にシカゴ万国博覧会の一環として開催された「万国宗教会議Parliament of the Worldʼs Religions」に見て、それ以後現在に至るまでのキリスト教側からの所謂「エキュメニカル(教会一致)運動」や第二バチカン公会議以降の「宗教間対話」の動向、そして「諸宗教の神学(宗教史の神学)」や「宗教多元論」等の言説を俯瞰しつつ、それらから読み取ることのできる自他認識の特徴と問題点とを以下の観点から分析している。 ①代表性の問題。誰がどのような資格から、またどのような文脈において「自」宗教の代表として「他」宗教と対話・協力しようとするのか。これは、ある宗教伝統内部における差異の存在や相互理解の問題と密接に関連している。 ②対話・協力の目的。諸宗教の間の教説・倫理上の一致、または合同の儀礼的実践(大本と米国聖公会が実践しているような共同礼拝や「比叡山宗教サミット」で行われているような共同祈祷等)、あるいは具体的な社会的・文化的問題に対する共同での取り組みが目指されているのか。これは諸宗教間に見られる明瞭な差異の問題にいかに対処しようとしているのか、そして対話・協力の前提となる「宗教」という共通項の内実は何かという問題と関連している。 ③宗教とエスニシティの問題。これは、特定の宗教伝統の地域的・地域文化的差異とその宗教伝統の「本質」との関係をいかに捉えるかという問題と関連している。 ④宗教研究と宗教間対話・協力との関係をめぐる問題。シカゴ万国宗教会議以来、キリスト教神学を淵源とする学問的宗教研究が宗教間対話・協力にファシリテータとして関与してきた。では、宗教研究は宗教間対話・協力における(西洋キリスト教的特徴を帯びた)一エージェントなのか、あるいはそれの観察者なのであろうか。 以上の観点から、宗教間対話・協力の歴史と現在において、「キリスト教」がいかなる形で「自己」と「他者」を表象してきたかを分析し、宗教的境界確定の時代的・地域的・文化的・社会的諸条件を明らかにし、本質主義的な「キリスト教」理解を相対化する契機を見出すことを引き続き試みる。宗教的境界の変容─空間と他者認識を中心に─(中間報告)39

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